節税対策(個人のお客様)

1.個人事業における節税対策とは

個人事業をされている方は、ご自分で税金を計算しなければなりません。税金が多くても損をしますし、逆に少ないと、税務署から指摘を受けることがあります。

多すぎてもダメ、少なすぎてもダメとなり、税金について、きちんとした知識を身につける必要があります。

個人事業主の方が払われる税金は大まかに分けて、所得税、住民税、事業税、国民健康保険税、消費税5種類となります。

所得税の金額が決まると(所得税の利益が決まると)、住民税・事業税・国民健康保険税の金額も自動的に決定されます。
そのため、所得税が上がれば、住民税・事業税・国民健康保険税が上がり、所得税が下がれば住民税・事業税・国民健康保険税も下がります。そのため、個人事業の節税対策とは、所得税を節税する、ということになります(所得税を下げれば、他の税金も連動して下がりますので)。
消費税だけは、原則として売上金額から決まるので、調整しようがありません

(1)所得税について

所得税の仕組み

収入金額 - 必要経費(1) = 所得金額

所得金額 - 所得控除額(2) = 課税所得

課税所得 × 税率 = 所得税額

所得税額 - 控除税額(3) = 納付所得税額

上記の図からも分かるとおり、個人事業主の税金は、収入金額から必要経費、所得控除額を差し引き、そこに税率をかけて、最後に控除税額を引く、という仕組みになっております。

収入金額を減らすことは原則として不可能です(売上を過少申告することは脱税になります)。そこで、節税対策の基本は、1-必要経費、2-所得控除額、3-控除税額、の3つを増やすということになります。

1-必要経費を多く計上する

この費用、経費にならないと思っていても、経費となるものは意外とあります。頑張ってさがしましょう。

2-所得控除額について漏れがないようにする

所得控除額は、社会保険料控除や医療費控除が有名ですが、それ以外にも所得控除の対象となるものが多くあります。これらも漏れなく計上します。

3-控除税額がないか探す

特定の備品を買ったり、従業員を訓練した場合、税金が安くなるかもしれません。これらは、税金から直接控除することができますので、忘れずに適用します。

2.具体的な節税対策

(1)必要経費を多く計上する

所得金額(その事業での利益の金額)は、収入金額から必要経費を差し引いて計算します。
そこで、よく問題となるので、必要経費の範囲です。

必要経費は、法律によって決められています。
所得税法37条1項において、必要経費となるのは、「その収入金額を得るため直接に要した費用の額」と決められています。

この「直接に要した」というところがポイントです。

要するに、「売上に直接関係するもの以外は経費にならない」といっているのです。
よく市販の書籍で、個人事業をしていれば、何でもかんでも経費になるという説明が、まことしやかに書かれておりますが、そのような事はありません。
(たまたま税務調査が入らず、結果として必要経費になっているに過ぎません)

それでは、どこまでが必要経費となるのでしょうか。具体的な対策は以下の様になるかと思います。
(実行に当たっては税理士に相談のうえ、行ってください)

1-自宅家賃の一部を必要経費とする

自宅の一部を、事務所として使用しているのであれば、事務所部分は必要経費となります。
例えば、アパートのうち、6割を住宅用、4割を事務所として利用しているのであれば、アパート家賃の4割は必要経費として認められることになります。

この割合は、通常は床面積で分けることになります。複数の部屋がおありであれば、一つの部屋を丸々事務所として使えば、きちんと区分していることになり、事務所部分は必要経費となることでしょう。

また、上記と同じ考え方で、水道光熱費の一部も必要経費にできますが、単純に床面積で按分するのではなく、実際の使用量を合理的に見積もって計算することになります。

2-飲食費等が必要経費にできるか検討する

飲食費等の交際費は、原則として必要経費となりません。しかし、事業に直接必要と認められれば、必要経費になる余地があります。

例えば、同業者団体の情報交換会は、その事業における最新情報を仕入れる絶好の機会であり、事業遂行に直接必要であると考えられるため、必要経費になるものと思われます。

しかし、知人や友人との単なる食事会は、もちろん必要経費となりません。領収書には、どのような打ち合わせをしたか、簡単にメモ書きしておくことをお勧め致します。

3-従業員への福利厚生費用を検討する

個人事業をされており、従業員様に退職金支給を検討されているのであれば、中小企業退職金共済制度(中退共-ちゅうたいきょう)を検討されるのも良いでしょう。
個人事業者が、従業員の退職金として、毎月組合に支払い、これを将来従業員が受け取るという制度です。

毎月の掛け金は全額必要経費になりますし、一定期間は掛け金の一部を国が助成してくれます。従業員様にも喜ばれるので、検討の余地有りです。

また、従業員への残業食事代や社員旅行費用も、一定の条件を満たせば必要経費となるため、そのあたりの検討もされてみてはいかがでしょうか。

4-自動車費用

自動車を事業に使ったのであれば、それも必要経費となります。購入費用はもちろんのこと(減価償却をして少しずつ経費となります)、ガソリン代、自動車税といった維持費用も必要経費です。

ところで、ここで問題があります。それは、自動車が個人的に利用されている場合です。この個人的利用部分は、収入金額を得るために使ったわけではないので、必要経費とならないのです。

例えば、個人で不動産事業をしており、車には不動産会社の名前がペイントされ、休日も会社車庫に置かれ、一切私用で使われていない。これは100%必要経費となります。

しかし、週の5日は事業用として使い、残りの2日は家族用に使うのであれば、これも合理的な割合で、必要経費分と個人的利用分とに分ける必要がでてきます。
ここでの合理的な割合とは、色々な考え方がありますが、利用日数で按分、移動距離、移動時間で按分といった方法が一般的かと思われます。

5-青色申告特別控除を検討する

個人事業主の方は、事業を始めてから原則2ヶ月以内に、税務署に「青色申告承認申請書」を提出しましょう。
この書類を提出し、きちんと記帳すれば青色申告適用者になることができます。

青色申告には、税制上様々な特典が用意されていますが、そのなかでも代表的なものが青色申告特別控除です。

青色申告特別控除は、一定の要件を満たした場合、65万円または10万円が所得金額から控除されます(正確には必要経費ではないのですが、決算書で控除するため必要経費の一環として説明します)。

青色申告特別控除の条件は

  1. 不動産所得、あるいは事業所得がある人
  2. 正規の簿記の原則により記帳をしていること
  3. 確定申告書着期限内に、決算書(貸借対照表・損益計算書)を添付し、青色申告特別控除を受ける金額を記載していること

となっています。

複式簿記で記帳すれば65万円、簡易的な帳簿記載でも10万円が控除できます。作成しなければいけない帳簿は増えますが、ぜひ検討されてみてはいかがでしょうか。

6-青色事業専従者給与の支給を検討する

所得税の計算上、生計を一にする親族(家計のお財布が一緒の家族)に対する給与は、必要経費となりません。
ですが、事前に税務署に届出書を提出することにより、家族への給与が必要経費となるのです。

ただし、その家族が事業に専念していること、金額が高すぎないこと等が要件となっています。

事業専従者給与は、白色申告でも認められますが、限度額が定められており、配偶者で年間86万円までとなっています。

一方、青色申告を行っている場合、事業専従者給与の限度額は定められていません。
仕事の内容、従事している程度に応じて、対価として妥当と判断できる金額であれば、必要経費として計上することが認められます。

ただし、家族へ高く払いすぎると、その家族の社会保険料が高くなったり(個人事業で社会保険に加入している場合)と、税金以外の支払いも増え、結果的に負担増となる可能性もありますので、実行前に試算してみることが大切です。

また、事業専従者はもともと個人事業主と生計を一にする人ですので、給与を実際支払わなかったとしても家計に影響はありませんが、給与の支払いをきちんと行っていない場合、税務調査があった場合問題になってしまいます。
もちろん青色事業専従者給与が未払いであれば必要経費には算入できませんので、毎月きちんと支払いましょう。事業専従者の銀行口座に専従者給与を振り込むと、記録が残りますのでベストな方法と言えるでしょう。

7-給与所得控除を有効活用する

たとえば、繁忙期だけ自分の事業をご両親等身内の方に手伝ってもらっている場合、生計が別であれば、従業員として給与を支払うことができます。

この場合は、必要経費に算入できますが、受け取る側の方が何か他に事業をされていてこれ以上所得を増やしたくない!といった事情があるとします。

このような場合、給与所得控除の最低額である65万円を支払うことで双方にとって一番良い節税対策となると考えられます。
給与所得控除とは、給与によって得られた収入から控除できる額で、年収の額によって定められています。その中で、最低額が65万円なのです。
つまり、年間の給与が65万円以下であれば給与所得はゼロになり、所得税がかかりません。そのため、受け取った側に新たな税金は生じませんし、支払った側はその分必要経費に算入することができますので、双方に節税効果が期待できます。

(2)所得控除額について漏れがないようにする

所得控除とは、課税所得から控除できる金額です。よく知られているが、医療費控除や配偶者控除といったものでしょうか。あまり知られておらず、かつ、有効な所得控除には、次のようなものが挙げられます。

1-小規模企業共済等掛金控除を検討する

小規模企業共済は、個人事業を営まれている方が、数十年後に訪れる事業廃業に備えて、ご自身でお金を積み立てる制度です。

毎月1,000円から最大70,000円までかけることができ、掛金は全額所得から控除されます。
そして、将来、受け取るときは、原則として退職所得となって2分の1で課税されるので、こちらも優遇されています。利益が出て、生活費に余裕がある方は、加入の検討をお勧め致します。

ただし、実際に事業をされていなければ、加入できませんのでご注意ください。また、同様の制度として、確定拠出年金もありますので、メリット・デメリットを考え、加入されることを検討してみてください。

2-配偶者控除を受けるため配偶者の給与収入を抑える

配偶者の年間給与が103万円以下であれば、配偶者控除を利用できます(青色専従者給与を受けている配偶者は、配偶者控除の適用を受けることはできません)。
配偶者控除の金額は38万円ですので、これも課税所得から控除することができます。

ですので、パート収入が103万円をこえそうな場合、税負担を考えて、パート時間を抑える、といったことも検討する価値はあります。

(3)税額控除の検討をする

最後は税額控除です。なんと言っても、納付する所得税から直接控除することができますので、効果は大きいです。

いままでご説明した、必要経費や所得控除は、これらの金額に税率をかけた金額分しか、所得税額は減りませんでした。
ですが、税額控除は、その金額が丸々引けるのです。そのため、忘れずに適用しましょう。

個人事業主の方で可能性のある税額控除は以下のとおりです。なお、いずれも青色申告が要件となっておりますので、ご注意ください。(平成27年度の制度を前提としております)

1-機械等を取得した場合の税額控除

事業をされていて、軌道にのって利益が出てきた場合、設備機械やコピー機を買い換えることもあるかと思います。これら設備の金額が160万円(又は120万円)を超えているのであれば、本制度の適用の可能性があります。

所得税額の20%が限度ですが、これらの取得価額の7%が税額控除として、所得税から直接控除することが可能です。確定申告の際、忘れずに適用したいものです。

2-雇用者数が増加した場合の税額控除

従業員が昨年に比べて2人以上増加した、事業主都合の離職者がいない等の一定の要件を満たせば、本制度の適用可能性があります。増加した従業員数1人につき40万円の税額控除を受けることができます(所得税額の10%または20%が限度)。

ただし、条件が厳しく、手続きが多い割に控除額が少ないため、若干利用しにくい制度となっております。

上記の他にも、様々な税額控除があります。個人事業主の方にとって、節税することが事業資金の余裕につながり、ひいては事業発展につながります。くれぐれもお気をつけください。

3.弊事務所の節税へのスタンス

個人事業主の税金である所得税は、会社の税金である法人税と違って、独特な税金です。
特に必要経費の範囲が大きく違います。会社であれば、経費の幅はかなり広いのですが、個人事業の場合は「収入金額を得るために直接必要な経費」とされてしまっているため、慎重な判断が必要になります。

税理士がお客様に節税対策をご提案するためには、お互いに連絡を取り合い、ご事情をお聞きしながらでないと、間違った判断やアドバイスをしてしまい、ひいては税務調査での否認につながってしまいます。
そのため、顧問先様には、何か大きな取引をする前には、事前のご相談をお願い致しております。ご協力のほど、お願い申し上げます。

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