士業(弁護士・弁理士・司法書士)の確定申告のポイント

116_6018055.jpg

弁護士先生、弁理士先生、司法書士先生といった、いわゆる士業の方の確定申告は、普通の個人事業の方と違って、税務上、気をつける部分が多いです。

また、税理士に依頼されずに、ご自分で確定申告をされていらっしゃる方も多いと思います。

間違えやすいポイントについて、簡単にまとめてみました。

(最終更新:平成28年10月7日)

弁護士業の確定申告のポイント

収入について

着手金はいつ収入に計上すべきか?

弁護士先生のお仕事は、次のような報酬のもらい方になると思います。

「着手金」+「残金(成功報酬)」

着手金は、契約を締結したときにもらうことが確定する、と税務では考えます(例え入金されていなくてもです)。

ですから、契約締結日に収入に計上します。これは東京地裁判決(平成20年1月31日判示)でも、そのように判断されています。

年末時期に、かけこみで事件を受任される弁護士先生は多いと思います。先程のご説明のように、着手金は契約締結時に収入計上ですから、契約締結日が年内であれば、年をまたがず、年内の収入として確定申告しましょう。

残りの報酬はいつ計上すべきか?

これも先程の東京地裁で判示されています。

契約書に「委任事務終了時に支払う」とあった場合は、委任事務終了時の日に収入に計上しなければなりません。

依頼者が債務超過状態で、残金を支払えるか分からない・・・。そんなときでも収入に計上しなければなりません。

万が一、そのような依頼者からの入金が焦げ付いたときは、下記でご説明する貸し倒れで経費に計上することになります。

立て替えた印紙はどうすればよいか?

裁判所等へ申請する際、印紙を立て替える場合があります。

依頼者から実費としてもらいますので、帳簿をつける際は、会計上は「売上」や「収入」といった名前の科目を使わず、「立替金」といったように、収入に関係ない科目を使いましょう。

(税務調査等で収入の計上漏れと疑われるのを防ぐため)

契約書の印紙はどうすればよいか?

個人開業の弁護士先生は、印紙税法の規定により、領収書については印紙税はかかりません。
ですが、依頼者との契約書には、所定の印紙が必要な場合があります。

「請負契約」には印紙が必要で、「委任契約」には印紙が不要との取り扱いになっています。

ここでの請負契約とは、仕事内容が特定されていて、報酬と仕事成果との対応関係があるものとされています。
例えば、特定の事件を解決するといった契約です。

対して、委任契約は、具体的な成果物がない契約ですので、継続的な顧問契約がこれにあたります。

このあたりは、税理士にご相談された方がよいかと思います。

また、契約書原本を一通だけ作成し、原本を依頼者へ、コピーを弁護士側で保管すれば印紙が1通分しかかかりませんので、若干の節約になるかと思います。

報酬の源泉所得税について

弁護士先生の確定申告をお受けしていますと、まれに、源泉所得税をきちんと天引きされていない先生がいらっしゃいます。

弁護士が法人から報酬をもらう場合は、必ず源泉所得税を天引きしてもらわなければなりません。
これを表にすると、次のようになります。

番号 弁護士側 相手側 源泉の
有無
備考
1. 個人事業 個人(家事事件等) なし  
2. 個人事業 個人(事業主等) あり 給料支払いがない小規模な
個人事業主には、源泉義務が
ない場合があります
3. 個人事業 法人 あり 法人が相手先の場合は
必ず源泉あり
4. 弁護士法人 個人・法人とも なし 弁護士法人への支払いは
源泉税を天引きする必要なし

1.のケースは、弁護士側が個人、相手側も個人(商売をしていない一般人)というパターンです。
源泉所得税は、まず、支払う側の方に、源泉所得税を天引きする義務があるかどうか見極める必要があります。
離婚事件といった家事事件の場合で、一般人に対し、
「源泉して源泉所得税を税務署に納めるように!」
と指導するのは不可能です。
ですので、事業をしていない個人が相手の場合は、源泉所得税が問題になることはありません。

2.のケースは、少し問題になりやすいです。
個人事業主には、原則として、源泉所得税を天引きする義務があります。
ですが、次のような小規模事業主には、源泉所得税の天引き義務が免除されているんです。

  • 給料支払いがない個人事業主
  • 常時、2人以下の家事使用人(お手伝いさん)だけに給料を支払っている場合

債権回収等で個人事業主(例えば八百屋さん)から依頼があったとしましょう。
この場合、八百屋さんに、従業員がいるか確認することになります。
おそらく、八百屋さんは、パートさんくらいは雇っているはずですから、その場合には、八百屋さんに源泉所得税を天引きする義務があります。
ですが、八百屋さんには、そんなことは分からないでしょう。
ですから、弁護士先生が八百屋さんに請求書を渡す場合は、源泉所得税が天引きになる旨を伝え、請求書にもそのように書いてあげてください。
そして、八百屋さんに、
「天引きした源泉所得税を、きちんと税務署に払ってくださいね」
と伝えてあげると、より親切かと思います。

3.のケースですが、弁護士側が個人で、相手側が法人の場合は、相手側(法人側)に、必ず源泉所得税の天引き義務が発生します。
税理士が会社の領収書・請求書をチェックしていると、たまに、個人弁護士からの請求書で、源泉所得税が記載されていないものがあったりします。
この場合、会社側は困ってしまいます。
以前、そのようなケースがいくつかあったので、会社側が弁護士先生にお支払いする前に、源泉所得税の記載がある請求書に訂正して頂いた事があります。
弁護士先生が、税金に理解のある方であれば良いのですが、なかにはご理解頂けない場合もあって、そんなときは本当に困ってしまいます・・・。

4.のケースは、弁護士側が法人(弁護士法人)の場合です。
このケースは簡単です。法人が受取人の場合は、相手が個人であろうと法人であろうと、源泉所得税の天引き義務は発生しません。

支払調書がクライアントから来ない場合はどうすれば?

弁護士報酬を支払う側(クライアント)は、一定額以上を弁護士に市原田場合、支払調書を税務署に提出する必要があります。
そして、クライアントは、税務署に提出した支払調書を、弁護士にも郵送してくれます。

これが本来の流れなんですが、この支払調書、税務署に提出する義務はあるのですが、弁護士先生に渡す義務はありません。
(ですので、親切でないクライアント、きちんと経理していないクライアントからは、支払調書が届かないことが多々あります)

クライアントが支払調書を弁護士先生に郵送する意味としては、
「この支払調書を税務署に提出しましたので、この数字以外で弁護士先生が確定申告すると、私(クライアント)か弁護士先生、どちらかに税務調査があるかもしれません。そのようなことにならないよう、お互い、数字を合わせましょうね」
という意味があります。

以前、この支払調書が原因で、知り合いの税理士先生に税務調査が入りました。
支払調書の数字と、本来の報酬支払額とのズレが、10万円程度ずれていたからなんですが、入るときは10万円のズレでも入ります。
(これは悪意ではなく、本当に、単なる経理ミスによるものだったんですが)

税金の専門家である税理士にも税務調査が入りますから、弁護士先生にも入ると思います。
もし、クライアントから支払調書が貰えないようでしたら、きちんと先方からの入金額・請負額を自分で集計・確認して、正しい金額を申告しましょう。

経費について

経費になるものは全て洗い出す

個人で開業されている弁護士先生は、次のような経費がもれやすいかと思います。

(1)自宅事務所の家賃・光熱費
自宅で開業されている先生は、自宅内の仕事スペース分の家賃を経費にしましょう。この場合は、仕事スペースや利用時間等を総合的に考えて、按分すべきでしょう。

(2)通信費
電話代も、仕事分・プライベート分が混ざっているのであれば、合理的な基準で按分して経費にしましょう。

(3)交際費
交際費(打ち合わせの飲食代)は、クライアントと仕事打ち合わせならOKなのですが、問題は見込み客等との飲食費です。
所得税法では、経費になるものは「収入に直接関連する費用」といってますので、この辺りを証明するために、領収書に鉛筆で飲食した相手先と打ち合わせ内容を簡単にメモしておくと、税務調査があったときに反論しやすいです。

スーツが経費になるのか?

これは簡単なようで、とても難しい、税理士にとって永遠のテーマです(笑)
税理士先生によって意見は分かれるかもしれませんが、私は次の理由により、スーツは経費にならないと考えています。

  • 事業と直接関係ない
  • スーツは結婚式等のプライベートにも着ていける

もちろん、講演する時の専用スーツ(派手なスーツ?)といった場合は認められる可能性も残されていますが、講演の時にしか着ていないということを立証するのは、なかなかハードルが高いです。

ちなみに、芸能人の舞台衣装は、専用の倉庫で管理しているそうで、出演時しか着ないそうです。これであれば経費になりますが、弁護士先生の場合、このような管理をするのは極めて難しいと思います。ですので、経費にならないと思います。

貸し倒れを経費にする時期

依頼者へ請求したお金が入金されてこなかった場合は、貸し倒れ処理をして必要経費に計上することになります。

問題は経費にする時期です。こちらとしては早めに経費にしたいところですが、税務では次の分類で細かく決められています。

  • 法律上の貸し倒れ
  • 事実上の貸し倒れ
  • 形式上の貸し倒れ

法律上とは、民事再生法や金融機関、行政機関が介入した際の切り捨て額等、公的な機関が関与した場合の貸し倒れです。こちらが依頼者に書面で免除した場合も、こちらの貸し倒れになります。

事実上とは、依頼者の状況を考え、「全額」を回収できない場合に、その回収できなくなった年に経費にします。全額というのがポイントです(一部が回収できる場合はダメ)

形式上とは、1年以上取引がない、担保物がない、取り立て費用を考えると赤字、といった場合は、1円だけ残して(備忘記録のため)、後は経費にします。

いかんせん、貸し倒れの時期は、税務署が目を光らせていますから、慎重に判断しましょう。

 

消費税について

個人開業の弁護士先生の場合で、年売上が5,000万円以内であれば、ほとんどの場合で簡易課税の方が有利になります。

簡易課税は売上のみで消費税を計算する方法(支払った消費税は考えない)ですので、ラクですし、ほとんどの場合、簡易課税の方が消費税が安くなります。

ただし、簡易課税の摘要を受けるためには、事前に税務署への届けでが必要になります。この辺りをお忘れの先生も多いですので、ご注意ください。

 

弁護士法人にすべきか?

たまにご相談があるのですが、多くの場合、個人事業の方がトータルでオトクになるかと思います。
といいますのも、弁護士法人にしますと、社会保険に加入しなければなりません(個人は強制加入。個人は従業員5人未満までは加入しなくてよい)
社会保険料の負担を考えますと、給与所得控除の恩恵を受けても、トータルであまり節税にならないんですね。
以前、ある弁護士先生から、法人化前と法人化後のシミュレーション依頼を頂いたのですが、結果として、あまり節税にはなりませんでした。
また、法人にしますと、税理士への支払いも発生しますし、経理の手間も増えます。
ですから、少なくとも弁護士先生お一人で、後は数名の事務員さんのみ、という事務所では、法人化は検討しなくて良いと思われます。

 

弁理士・司法書士の確定申告のポイント

基本的には上記の弁護士先生と同じですが、違う部分だけ挙げてみます。

立て替える印紙が多い

弁理士先生であれば特許申請等で、司法書士先生であれば不動産登記等で、依頼者から印紙代を事前に預かるかと思います。
その際は、会計帳簿の処理は「立替金」と処理することをお勧めします。
帳簿を自分でつけるとわかるのですが、立替金で処理しますと、依頼者から預かった時は立替金が増え、役所に印紙を支払うと立替金が減ります。
ですので、年末に多額の「立替金」が残っていると、帳簿がおかしいと分かるんですね。
また、売上にしてしまいますと、税務署も本当の売上だと勘違いするかもしれません。
(税務署は確定申告書をOCRで読み込んで数年間の売上比較を自動で行っています)
ですから、税務署からあらぬ疑いをかけられないように、「立替金」で処理しましょう。

請求している交通費を収入にしていない

依頼者への請求書に「交通費」という項目があるかと思います。

この交通費、依頼者へ交通費の「実費」を請求していれば良いのですが、実費を請求していない場合、それは収入になってしまいます。

収入になった場合、源泉所得税にも影響しますし、消費税の課税売上にも含めなければなりません。

この辺りをお間違いの先生もいらっしゃいました。金額的には少額なんでしょうが、お気をつけ頂きたいです。

 

確定申告を税理士に頼むべきか?

税理士に確定申告をお願いすべきか。これは費用対効果がポイントになるでしょう。

青色申告の65万円控除という制度があります。これは「きちんとした帳簿(複式簿記)をつけていれば利益から65万円引きましょう」という制度です(帳簿をしっかりつけないと10万円控除になります)
ですから、きちんとした帳簿をつけていれば、55万円を利益から余分に引くことができます。そうしますと

「55万円×55%(所得税+住民税の最高税率)=約30万円」ということで、約30万円税金が安くなります。

最高税率は課税所得4,000万円超ですから、そんな方はなかなかいらっしゃいません。ですが、年間売上が2,000万円~3,000万円ですと、課税所得は1,000万円くらいにはなると思います。その場合でも

「55万円×43%(所得税+住民税税率)=約23万円」

ということで、約23万円税金が安くなります。

帳簿つけから解放される時間と、節税効果とを見極めながら、依頼されるかお決めになった方がよろしいかと思います。

faq_normal.jpg