社長のお給料、どうやって決めていますか?

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

最近、「社長のお給料をいくらにすればよいですか?」というご質問を頂きました。

この問題、簡単なようで、意外と奥が深いものです。色々と考えていきましょう。

ポイントは、税金のことだけを考えないということです。

税金の負担について

当たり前のことですが、おさらいしてみます。

社長のお給料を上げると・・・

  「会社の利益が減る(会社の税金が減る)」 → 「個人の収入が増える(個人の税金が増える)」

社長のお給料を下げると・・・

  「会社の利益が増える(会社の税金が増える)」 → 「個人の収入が減る(個人の税金が減る)」

社長様のお給料を上げた分だけ、会社の利益は減りますが、同じ分だけ社長様個人の収入は増えますので、基本的には、税金は変わりません。ですが、以下の2つにご注意ください。

(1)会社の税率と個人の税率の違い

お給料を上げれば、上げた分だけ会社の税金が減り、個人の税金が増える。確かにそのとおりなのですが、お気をつけ頂きたい点があります。

それは、会社の税率は定率(同じ税率)だが、個人の税率は超過累進税率(収入が増えれば増えるほど)である、ということです。

つまり、社長のお給料を高くし過ぎてしまうと、会社の税金が減りますが、それ以上に個人の税金(所得税)の方が高くなってしまい、会社と個人のトータルの税金が上がって損をする可能性があるのです。

ですから、業績が好調で、社長のお給料を上げる場合には、事前に「会社+個人」の税金を比較してから行いましょう。

(2)給与所得控除について

お給料をもらっているサラリーマンには、経費が認められていません。ですが、そのかわりに給与所得控除という制度があります。
これは、サラリーマンにも一定額を経費として引いてあげましょう、という制度です。給与が多ければ多いほど、引ける金額も上がります。

社長がもらうお給料にも、もちろん給与所得控除が使えます。ですが上限があります。具体的には、お給料の金額が年間1,500万円を超えると、超えた金額については給与所得控除が使えません。
ですから、給与所得控除があるからお給料を高くしよう、と簡単に考えていますと、高い税金を払うことになってしまいますう。

さらに付け加えますと、1,500万円という給与所得控除の上限は、平成28年分は1,200万円、平成29年分以降は1,000万円と、段階的に下がっていきます。
これらの法律改正もふまえてお給料をきめましょう。

 

弊事務所の顧問先様で実際にあった事例ですが、業績が悪くなっても社長のお給料を下げていない会社様がありました。
そうしますと、払いきれないお給料は、社長が会社に貸しているお金と言うことで、貸付金となり、社長がお亡くなりになったときには相続税がかかてしまいます。

様々なご事情により、他の会計事務所様から弊事務所に担当が変わったケースで、このような事例を多くみてまいりました。
税金の負担だけを考えても、問題は色々とでてきますね。

 

社会保険料の負担について

お給料を上げると社会保険料が増える

(社会保険に加入している会社様を前提にご説明しております)

当たり前のことですが、お給料を上げますと、社会保険料は増えます。
社会保険料は会社と個人とが半分半分ずつ負担(会社と個人とを合わせて約27%の負担になります)していますから、その分の負担が増えるのは致し方ありません。

ですが、70歳を超えていらっしゃる方は、厚生年金保険料の負担はありません(健康保険料の負担はあります)。
また、75歳になったら、健康保険は後期高齢者の制度に切り替わります。

ですから、社長様の年齢から、社会保険料がいくらになるかも考えてお給料を決める必要があります。

お給料を上げすぎると年金がもらえない可能性がある

60歳以上の社長様の場合、お給料と年金、両方をお受け取りのかたもいるでしょう。

そのときにご注意頂きたいのが、社長のお給料を上げすぎると年金がもらえなくなる可能性がある、ということです。
(「給料+年金」の合計額が高い方は、生活には困っていないでしょう。なので年金を減らします、という制度です)

計算は複雑なのですが、簡単にご説明しますと、「毎月の年金額+毎月のお給料」が28万円を超え始めたら、注意が必要です。
これを超え始めますと、もらえる年金が徐々に減っていきます。
(計算は複雑なため、詳しくは年金事務所や社会保険労務士にご確認ください)

 

これも、弊事務所の顧問先様(中央区の方)であったのです。
その顧問先様は、ご事情があって弊事務所に担当がかわりましたが、この年金の支給の停止について、ご存じありませんでした。
弊事務所が担当するようになってから、年金が減額される旨のご説明をして給料を下げて頂き、年金を受け取ることができました。
社長が63歳のときでしたので、60歳からの約3年分、年金をもらいそびれてしまいましたが、途中からでもご説明することができて良かったと思っております。

このようなことにならないよう、税金だけでなく、社会保険にも気を配る必要がありますね。

 

退職金についても気を配りましょう

社長が退任される際は、退職金をお支払いすることができます。

退職金は、「会社で経費になる」「個人の税金が少ない」「社会保険料がかからない」といった風に、いいことずくめの制度です。
ですから、お金がある会社様は、ぜひ検討されるべきかと思います。

会社にたまったお金を、社長に移す方法として、他には「毎月のお給料を上げる」、「配当金を出す」といった方法もあります。

毎月のお給料を上げますと税金や社会保険料が上がりますので、負担は増えます。

また、配当金をだしますと、社長個人の方で高い税金がかかってしまいます。

そのため、税理士は退職金の支払いを考えるのです。

ところで、退職金を支払う際に、気をつけて頂くポイントがいくつかあります。

きちんと退任すること

当たり前ですが、退職金は退職したときに支払うものです。

よくあるのですが、社長が形だけ退任して息子に譲り、実際は仕事を続けている、というパターンがあります。

この場合、きちんと退職していないとして、税務署から退職金を否認(会社で経費にならない、個人の方でも高い税金がかかる)とされる可能性があります。

ですから、退職金を受け取ったら会社に来ない、もしくは週1日程度出勤し顧問としてアドバイスする、そのようにしておくべきでしょう。

社長のお給料を下げすぎると・・・

もう一つご注意頂きたいのが、社長のお給料を下げすぎると退職金を高く支払えない可能性がある、ということです。

退職金の決め方は、いくつか方法がありますが、実務で一番採用されているのが「功績倍率方式」という方法です。
この方法では、次の計算式により社長の退職金支払額を計算します。

 「退任時の最終月額給与×在職年数×功績倍率(3倍程度が限度)」

この方法では、退任時のお給料を基礎に計算しますので、お給料を下げすぎますと、支払える退職金の金額が下がってしまいます。

この金額以上をお支払いすることは可能ですが、超えた分は、会社で経費にならなくなる可能性があります。

もちろん、この計算式が絶対というものではありません(裁判例等で、創業者の社長様であれば、これ以上支払っても、退職金の支給が認められた例があります。)

ですが、退職金は税金が安くなりますので、税務署も特に注意して見ています。

そのため、業績が悪いからといって、すぐにお給料を下げてもよいかというと、そうではないのです。

また、退職金は、税金も社会保険料も優遇されていますから、毎月のお給料をあまり上げずに、最後に退職金でとる方が有利になるかもしれません。
社長様の方で、5年後、10年後の事業計画を考え、それを税理士に相談し、できるだけ社長様とそのご家族様に、お金が残るようにすべきなのです。

 

相続税のことも考える

業績が良いからといって、社長のお給料を上げますと、社長にどんどんお金が貯まっていきます。

そうしますと、社長がお亡くなりになったときには、多額の相続税がかかるかもしれません。
そのため、お子様が役員や従業員になられているなら、そちらのお給料を上げることも検討すべきでしょう。

ですが、実際の仕事内容よりも多く払いますと、税務署がやってきて「給料が高すぎる」と言われて、一部が経費にならない可能性がありますので、ご注意ください。

 

これからは税金だけでなく、色々な知識が必要になります

社長のお給料をいくらにするか、それだけについて考えたのですが、色々と話が広がりました。

この問題、税金だけを考えますと、あまり難しくはありません。
ですが、社会保険や退職金、さらには将来のことまで考えますと、とたんに難しくなります。

そのため、これからの税理士は、税金だけでなく、社会保険や労働保険、さらには顧問先様の業界知識まで、幅広く勉強していく必要があるでしょう。

また、社長様の方でも、税理士をご信頼いただき何でもご相談いただく。税理士の方は、そのご信頼に応えるため、必死になって勉強し、ご期待に応えられるようにする。
それが、社長様と税理士、双方のご発展につながることでしょう。
 

日々、精進しなければなりませんね。