現金の残高がものすごく多い会社?

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

色々な会社の経理を見させて頂いておりますが、たまに、ちょっと問題のある経理処理にあたることがあります。

今回は、そのなかでも、「現金の残高がものすごく多い会社」について、考えてみたいと思います。

現金の残高が1,000万円?

(守秘義務がありますので、事実を少しぼかしてお話しさせて頂きます)

10年ほど前のお話でしょうか。私が事務所に勤務しているときのお話です。

私が担当している会社様に税務調査が入ることになりました。

この会社様、従業員は15人程度でしょうか(業種は伏せます)。業績は好調なのですが、社長様に少し問題があり、数年ごとに税務署から税務調査を受けておりました。

以前、調査があったときは、売上の計上時期や経費について、調査をされましたので、今回もその調査だと思いました。

そして、今回の税務調査。前回と同じく、売上や経費について色々と調べられました。会社の税務調査はだいたい2日程度で終わることが多く、今回もその予定でした。

問題点を色々と指摘され、やっと終わると思った瞬間、税務署の方が、

「これから現金の残高を調べますので、会社の金庫を空けてください」

とおっしゃられました。

私の方は、急に心臓がドキドキし、冷や汗がでてきました(笑)

 

実際に金庫の中にあった金額は・・・

これには少し伏線があります。

決算が終わるたび、私は社長様に、「金庫の中に、きちんと帳簿上の現金があるんですよね?」とお聞きしておりました。というのも、帳簿上の現金残高が、毎年少しずつ多くなっていたからです。

社長様は少し怒ったように、「きちんとあるよ。そんなに信用ないかなぁ」ともおっしゃっておりました。

このように社長様にきちんと確認はしていたのですが、こちらも会計士(会計士は大企業の不正をチェックするのがお仕事です)ではありませんし、あまり問い詰めると、社長様もご気分を害されてしまいます。ですから、上記のようなご質問をして確認するのが精一杯なのです。

税務署員も現金残高がさすがに多いと思ったのでしょう。金庫を空けてください、との請求をされた次第です。

税務署員は、その請求のあと、カバンの仲から「金種表」を出しました。

金種表とは「金庫の中に100玉が何枚、千円札が何枚、一万円札が何枚あった」ということを確認するための表です。税務署員が金庫の中を目視して、これに残高を記入し、社長様にサインを求めるのです(求めない場合もありますが)。

実際に金庫を空けたところ・・・、お金は10万円ほどしかありませんでした!

決算書のうえでは、現金残高が約1,000万円となっています。残りの990万円以上は、どこに行ってしまったのでしょうか?

社長様は、「いま他人に貸しているお金もあるし、それを帳簿につけ忘れたんだよ。」とおっしゃっておりました。

ですが、それでも多すぎます。いったい、どのような処理をしたら、現金残高が多くなってしまうのでしょうか?

 

なぜ現金残高が多くなってしまうのか?

実際に現金が残っていないのに、なぜ、決算書(帳簿)上は現金が多くなってしまうのか?
いくつかの原因があります。順番にご説明していきましょう。

きちんと経費を支払ったが、領収書をなくしてしまった

これは良くあると思います。居酒屋で打ち合わせをしたが、酔っ払って領収書をもらい忘れたといったこともあるかと思います。

ですが、領収書をもらい忘れても、出金伝票等に、日時や打ち合わせ内容をきちんと書けば、それで経費として認められます。

たまたまもらい忘れたというのが前提ですが、税務署もその辺りの事情はくんでくださいます。ですから、領収書をなくしてしまった、というのは、本来であれば理由にならないでしょう。

また、他人に貸したお金を帳簿につけ忘れた、ということも、これに含まれますが、そんなことはまれだと思いますが・・・。

社長が個人的に使用してしまった

これが最も多いです。

中小企業の社長様ですと、会社のお金と個人のお金とを、きちんと区別していないことも多いでしょう。

よくある例として、ご家族のためににプレゼントを買う必要があるが、銀行に下ろしにいけない。そんなときは「後で返せばいいや」ということで、会社の金庫からお金をかり、そのままになってしまうケースです。

このお金は、会社から見ると「貸付金」になります。

ところで、会社は営利追求団体(利益を求める団体)となっています。そのため、税金の法律でも、会社が他人にお金を貸したら、原則として利息を取りなさい、ということになっています。

ですから、このようなお金で未精算のものがあれば、会社は利息を上げなければならず、それに税金(法人税)がかかってしまいます。

また、長い間、貸付金を清算せずに放っておきますと、、会社が貸したのではなく、社長に賞与(ボーナス)を払った、とされてしまいます。

これは最悪のパターンです。というのも、社長様への賞与は会社側で経費にならず、源泉所得税も払わなければならず、社長様側でも賞与をもらったとして所得税を払う必要があります。

いわばトリプルパンチですから、気をつけましょう。

仕事を紹介してくれた方に紹介料をお支払いしたが領収書をもらえなかった

これも多いと思います。

上場企業の社員といった肩書きの方は、仕事を斡旋してお金をとることは原則として禁止されているでしょう。

本来であれば、会社は、仕事を紹介してくれた方へのお礼を経費にすることができます。

ですが、そうしますと、こちらで経費になっているのに、あちら(紹介してくれた方)が収入にしていないのはおかしい、と税務署は言うでしょう。

そうなってしまうと、税務署は仕事を紹介してくれた方に、確定申告をしないさいと言い、そのとおりにすると、住民税等の通知で、会社に副業がばれてしまう可能性があるのです・・・。

ですから、お支払いして領収書や受取証をもらいたくても、もらえないこともあるんですね。

 

税務調査の結果・・・

この税務調査の顛末です(守秘義務があるため、あまり詳しくはお伝えできませんが・・・)

結局、社長様の言い分(他人に貸している)が一部認められたのですが、それを考えても、帳簿上は、まだ数百万円の現金があることになります。

ですが、実際の現金残高は10万円前後です。

本来であれば、社長様への貸付金や社長への賞与、といったことになってしまうのでしょう。
ですが、そこは私から税務署員の方に色々とご説明をさせて頂きまして、「原因を分析して少しずつ直していきましょう」、という結論になりました。
結果的に、社長様にもお喜び頂けて良かったと思っています。ですが、その社長様も税務署が怖いと思われたらしく、きちんとした経理をして頂けるようになりました。良かったです(笑)

税務署の方も、鬼ではありません。きちんとしたご説明をすれば、こちらの色々な事情を考慮して、まじめな、まともなご判断をしてくださいます。

税理士が税務署にご説明する。その方法は色々ございます。「強い口調で対応する」、「色々話しかけて考える時間を与えない」「税金の法律を理解してきちんとご説明する」・・・。

色々な方法があるなかで、私は、「税金の法律を理解してきちんとご説明する」という方法で、税務署の方とお話し合いをします。
この方法、法律を調べるのに時間がかかりますが、理屈が通っていれば税務署も認めてくださいますので、一番確実な方法だと思っています。

ですが、これをご覧の皆様は、この社長様のようにならないよう、きちんと帳簿をつけてください。そうすれば、ほとんどの場合、問題はおきないでしょうから。

※本記事に関する無料相談はお受けしておりません。あらかじめご了承ください。