不動産・借入金・相続税のバランスを考えて対策する

IMG_7986-1.jpg

税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

地主様や、不動産オーナー様の資産状況を見ると、借入金の割合が異常に多い場合が、まま見受けられます。

よく「借入をして賃貸物件を建築(または購入)すると、相続税が節税になる」なんて言いますが、やり過ぎると色々な弊害が出てきます。

今回は「不動産・借入金・相続税のバランス」について考えてみました。

 

なぜ銀行借入をして建築(購入)するのか?

税理士であれば、貸借対照表の仕組み(資産・負債のバランス)と、財産評価基本通達の評価方法が分かりますから、次の図の意味が理解できるでしょう。

kariirekin.png

例えば、資産2億円(現預金1億円と土地1億円)を持っている方が、ご自身の土地上に、銀行から1億円を借り、1億円の賃貸アパートを建てます。

そうすると、建物は固定資産税評価額で評価され(建築金額の50%と仮定)、貸家割合が控除されるので、1億円で建築しているにも関わらず、相続税評価額が3,500万円となります。

また、土地は貸家建付地となるため、8,200万円(借地権割合が60%の場合)と評価されます。

以上により、2億円だった資産総額が、1.17億円へと「結果として」減額されるわけです。
※いわゆる「課税価格の圧縮」というやつです。

特に先祖代々の地主様は、土地を何とか維持したい(相続税支払いのために売却したくない)という気持ちがあります。

また、土地には多額の固定資産税がかかりますから、土地を利用してなんとか収益をあげないといけません。
これら複数の動機により、銀行借入をして賃貸物件を建てる(または購入する)といった行為が行われるわけです。

 

銀行借入が多すぎると後々どうなるか?

私は仕事がら、多くの地主様・不動産オーナー様を見てきました。 

その中には、相続対策を意識しすぎて多額の銀行借り入れをしてしまい、人生の晩年において生活費に苦労する、次の後継者が苦労する、という姿をよく見てきました。
 
借入金の返済が滞ると、銀行は抵当権を行使して物件(土地・建物)を売却してしまいますから、本末転倒です。
ですから、返済ができなくなってくると、親族から借りたり、他行から借りたりして(他に担保提供資産がある場合)、 さらに苦しい状況となってくるわけです。

あまりにも土地建物の維持を重視しすぎると、生活が苦しくなってしまうんです。そのような方々も多く見てきました。

 

相続直前の物件購入も危ない

極端な相続対策も危険です。

上記の図のスキームを推し進めると、

「相続直前に銀行借入をして高額(数億円~十数億円)の賃貸物件を購入すれば、相続税の節税になるのではないか?」

と考える方もいらっしゃいます。

このような節税スキームは昭和後期頃から後を絶ちませんが、最近で言うと、令和4年4月19日の最高裁判決が特に有名です。

この判決は、極端な事例でしたが、風の噂で、他にもこのような事例が複数、進行中のようです。
※税務署に指摘されてすぐに修正申告すれば、そもそも裁判にならないので、他の税理士に知られることもないでしょう。

 

不動産を残すために多額の銀行借入をして、生活が苦しくなるのであれば本末転倒です。
そうならないためには、どうすればよいのでしょうか。

それは、他人の意見を聞き、家族の今後を心配するということに尽きるでしょう。

あるご高齢のお客様から、相続前に次のような相談をされました。

「複数の土地があるんだけど、これらは貸宅地(他人に貸して、借地人が建物を建てている土地)なんですよね。そのまま息子や娘に相続させればいいんでしょうか?」

私は、

  • 相続人(息子・娘)に管理する能力はあるか?
    →公務員や会社員なので特別な知識はない
  • 土地に思い入れはあるか?
    →あまりない
  • 借地人(土地を借りている方)から、以前、買い取りたいという話しが来たか?
    →1年ほど前に来ていた。
  • 借地人が提示した買取価格はどれくらいか?
    →かなりの不整形地(いわゆる旗竿地)の割には、財産評価基本通達の8割戻しを超える、結構な金額だった

以上を説明すると、お客様は「じゃあ、売ろう。子供には負担をかけさせてたくないし」とのことで、翌月、売却契約を結ばれ、その1年後くらいにお亡くなりになられました。

何が幸せなのか。その価値観は人によって異なりますが、

「遺された家族に負担にならないか?」

それに勝る価値観はないでしょう。

そのためには、銀行や不動産業者の言いなりにならず、税理士の意見を聞いて、常に「不動産・借入金・相続税のバランス」を考えて対策することです。

そのために、税理士も業者の言いなりにならず、公平・中立の立場を貫くことが必要になります。

 

※本記事についてのご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。