未収家賃・未収地代・供託金にも相続税がかかりますか?

質問

私(80歳:男性)は、賃貸アパートをいくつか所有しております。
また、先祖代々の土地もいくつか所有しており、こちらも貸しています。

ただ、この不景気ですから、家賃をなかなか払ってくれない方もいらっしゃいます。
(一番長い方は、数年間も滞納しています)

私も、
「なるべく少しずつでも余分に払ってください」
とお願いをしているのですが、なかなか強く言えません。

ところで、先日、顧問税理士の先生に、このことをご相談したら、
「まだもらっていない家賃や地代にも、相続税がかかるんですよ」
と言われました。

未回収の家賃や地代は、合計で約300万円くらいになってしまいます。
もらえるか、もらえないか、わからないものにも相続税がかかるのは、納得いきません。

顧問税理士の先生がおっしゃていたことは、本当でしょうか?

回答

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

顧問税理士の先生がおっしゃっていたことは、本当です。

まだ、もらっていない家賃や地代、さらには供託金についても、相続税がかかることになっています。

ですので、まだ回収できていない(もらっていない)地代・家賃・供託金がある状態で、ご相談者様に相続が発生してしまいますと、相続税を余分に払うことになってしまいます。

私自身、判断に悩んだ事例、迷った事例も多くありますので、具体例をまじえてご説明しましょう。

 

1.未収地代・未収家賃は、いつ相続財産になるのか?

相続税の法律では、経済的価値があるもの全てに相続税をかける、となっています。

そのため、もらう期限が来ているのに、まだもらっていない家賃や地代については、相続税がかかることになります。

具体的には、つぎの図のようになります。
(家賃のご説明をしていますが、地代でも同じ考え方になります)

(1)当月分の家賃を当月にもらう場合

例えば、当月分の家賃を、当月(今月)の月末にもらうとします。

この場合、契約書には、つぎのように書かれていると思います。

「第3条(家賃の支払時期)」
乙(借主)は、甲(貸主)に対して、毎月末日までに当月分の家賃10万円を、甲の指定する銀行口座へ振り込みにより支払うものとする。

この場合で、お父様に相続があった場合は、つぎのようになります。

相続財産(未収家賃)(2).png

例えば、毎月月末に家賃を受け取る約束で、6月25日に相続が開始があったとします。
この場合、会計的な考え方、簿記的な考え方では、6月1日~6月25日までの分を、未収家賃として相続財産(相続税の課税対象)に計上することになる、と思われるかもしれません。

ですが、相続税では、お亡くなりになった日(相続開始日)現在の財産を集計しますので、まだもらっていない日割り家賃については、相続財産の対象にならないんですね。
このように評価するには、つぎの3つが根拠となっています。

  • 財産評価基本通達208(未収法定果実の評価)
  • 財産評価基本通達204(貸付金債権の評価)
  • 国税庁のホームページ

財産評価基本通達208(未収法定果実の評価)

財産評価基本通達(相続税を計算する際の法律のようなもの)208に、つぎのような文章があります。

財産評価基本通達208(未収法定果実の評価)
「課税時期において既に収入すべき期限が到来しているもので同時期においてまだ収入していない地代、家賃その他の賃貸料、貸付金の利息等の法定果実の価額は、その収入すべき法定果実の金額によって評価する。」

法定果実というのは、要するに、何かモノを使わせてもらったときの対価、ということです(民法88条)
この場合、家賃は、家を使わせてもらった対価ですので、法定果実になります。

法定果実は、
「・・・その収入すべき法定果実の金額によって評価する。」
と、この通達に書いてありますので、
「収入すべき法定果実=まだもらっていない家賃」
となり、まだもらっていない家賃を相続財産に計上することになります。

では、「まだもらっていない家賃」とは、どのような意味でしょうか?
それは、もらう期日を過ぎているのに、まだもらっていない家賃のことを言います。

ここでは、6月25日に相続が開始していますが、この段階では、6月30日にもらうべき家賃(6月分)は、まだもらっていない家賃にはなりません。
6月分家賃は、6月30日になって、初めて支払義務(受け取る権利)が発生しますので。

財産評価基本通達204(貸付金債権の評価)

財産評価基本通達はたくさんありまして、「財産評価基本通達204(貸付金債権の評価)」というものもあります。
この通達は、貸付金はつぎの合計額で評価するように、と書いてあります。
(分かりやすい表現に変更してい、ご説明しています)

  • 貸付金の元本
  • 利息支払日がきているのに、まだもらっていない未収利息
  • 日割りの利息

貸付金の利息は、財産評価基本通達208でも触れられていました。
ですが、ここでは、あえて「日割りの利息」という文章が入っています。
(正確には「既経過利息」という文章ですが)

未収家賃には、この言葉は入っていませんでした。
ですので、逆説的に言えば、家賃については貸付金利息のように、特別な決まりがないので、既経過家賃?については、相続財産に計上しなくて良いことになります。

国税庁のホームページ

下記のリンクに、私が今までご説明してきたものと、同じ事が説明されています。

「支払期日未到来の既経過家賃と相続財産(国税庁ホームページより)」

最初にこのことをご説明しても良かったのですが、考え方をご確認頂くために、最後にご説明させて頂きました。
国税庁がこのように説明していますから、日割り分の家賃は相続財産に入れなくてよいことになります。

上記までご説明のとおり、5月分までの家賃(5月31日に支払うべき家賃)が、きちんと振り込まれているのであれば、今回のケースでは未収家賃は発生しないことになります。
(よって、未収家賃を相続財産に計上しなくて良いことになります)

 

(2)前受家賃は債務控除の対象となるのか?

ところで、いまは「当月分を当月末にもらう」という契約書を見てきました。
ですが、実際の契約はつぎのようなケースが多いと思います。

この場合、契約書には、つぎのように書かれていると思います。

「第3条(家賃の支払時期)」
乙(借主)は、甲(貸主)に対して、毎月末日までに翌月分の家賃10万円を、甲の指定する銀行口座へ振り込みにより支払うものとする。

この場合は、つぎのようになります。

相続財産(未収家賃)(4).png

6月分の家賃は、既に5月31日にもらっています。
(家賃を前倒しでもらっています)

そのため、毎月の支払日(この場合は月末)までに、きちんと家賃をもらっていれば、原則として、相続財産に計上すべき未収家賃は発生しないことになります。

ところで、次のような疑問が発生しませんか?

「相続開始時点で、6月分(6月1日~6月30日までの分)を、前受けで5月31日にもらっている。そのため、5日分(6月26日~6月30日までの分)は、6月25日時点で返すべきお金だから、5日分は相続財産から引けるのでは?(つまり、債務控除できるのでは?)」

このご質問については、「残念ながら債務控除できない」というのが正解になります。

債務控除(相続税の計算上、財産から引くことができる金額)は、つぎが要件となっています。

  • 被相続人(亡くなった方)の債務であること
  • 確実な債務であること

この前受けでもらっている日割り分の家賃(前受家賃)は、確実な債務にはなりません。
というのも、普通は、入居者様と賃貸借契約が続くでしょうから、5日分の家賃は、返す必要のない金額になり、確実な債務とはならないからです
(ただし、入居者が解約手続き中に相続が開始した場合で、返還すべき日割り家賃が具体的に計算されているのであれば、債務控除できる可能性があります)

なお、敷金・保証金は入居者に必ず返す必要がありますので、確実な債務となり、債務控除の対象となりますので、お間違いのないようにお願いします。
(ただし、償却分を差し引いた金額が債務控除の対象となります。)

このあたりは、とても入り組んでいますが、少しでも相続税を正しく計算するため、確認しておきたいところです。

 

(3)未収家賃・未収地代のまとめ

上記でご説明したとおり、「当月分を当月にもらう方法」や「翌月分を当月にもらう方法」のいずれであっても、支払期日どおりに支払われていない分だけが未収家賃・未収地代になるということがお分かり頂けたかと思います。
(原則として、日割り分は計上しません)

ですので、支払期日を過ぎているのに、ほとんどもらえる可能性のない未収家賃や未収地代については、相続財産になってしまいます。
数百万円も貯まってしまっている方は、相続が発生する前に、何とかする必要があります。
(この方法については、後述します)

 

2.供託金にも相続税がかかります

供託金も、未収家賃や未収地代と同じく、相続財産になります。

供託金(きょうたくきん)とは何でしょうか?
簡単に言えば、次のとおりです。

借主
「今月分の家賃10万円を払いに来ました」
大家さん
「ウチは今月から、家賃を10万円から12万円に値上げすることにしました。10万円じゃ受け取れません。」
借主
「確かに、家賃を値上げするというお手紙をいただきました。ですが、私も生活が苦しいので、12万円になると払えません。受け取ってもらえないと、家賃滞納になってしまいます。何とか受け取ってもらえませんか?」
大家さん
「12万円持ってきたら、受け取ってあげますよ」
借主
「(払いたいけど、払えない。どうしよう・・・」

といった場合に、検討することになるのが「供託」です。

具体的には、借主様は大家さんに対してではなく、法務局に対して支払います。
そうすると、大家さんに払ったのと同じ効果があるのです。
ですので、家賃を滞納しなくて済みます。

ただ、何でもかんでも供託できるわけではなく、法務局に対して、揉めていることが分かる書類を持参して、手続きすることになります。
賃貸借契約書や、家賃を値上げするお手紙等が必要となります。

 

家賃が供託された場合は、大家さんの自宅へ「供託通知書」という書類が送られてきます。
具体的には、つぎのような書類になります。

供託通知書

ここの「供託の事由」の欄を見ると、争いの内容が書かれています。
今回のケースでは、「家賃の増額交渉につき争いがあり、家賃の受領が拒否された」といったような文面が書かれていると思います。
(具体的な文面の書き方は、法務局の職員の指導に従うことになります)

このような供託金ですが、この通知をもらった不動産オーナー様はご存じのとおり、もらうことができません(法務局から引き出すことができません)。
もらってしまうと、原則として、相手の主張(今回は家賃を据え置くこと)を認めたことになってしまうからです。

供託金を引き出すのは簡単です。
法務局に必要書類を持って行けば、結構簡単に引き出すことができます。
ですが、もらってしまうと、負け?を認めてしまうことになります。

このような供託金にも、相続税がかかります。
要するに、お金と同じですから。
(税務署は、引き出せない事情まで考えてくれません)

私(税理士:石橋)の受任した案件でも、数千万円分(件数自体は多くないのですが、10年以上争っていたので、供託通知書が相当貯まっていたんですね)の供託通知書があったことがありました。
このように、自分の自由にならない供託金にも相続税がかかりますから、その場合は、どうやって相続税を払うかが問題となります。
換金(供託金を引き出す)してしまうと、相手の主張を認めてしまうことになります。
相続人(お子様達)は、そのジレンマとも闘うことになります。

なお、供託されるケースとしては、家賃の増額交渉以外では、「賃借権(借地権)があるかないかの争い」、「賃借面積の大小の争い」といった事が挙げられます。
争いがあったまま相続が発生しますと、つぎの世代まで、その争いが引き継がれてしまいます。
また、相手先に相続があった場合には、その相続人と連絡をとらなければならず、相続にが複数いた場合は、交渉が大変です。
そのため、早めの解決が望まれます。

 

3.長期間、滞納している未収家賃や未収地代がある場合はどうすれば?

もらえるかどうか分からない家賃や地代(未収家賃・未収地代)にも相続税がかかってしまう。
これはご理解頂けたかと思います。

問題は、それらをどう処理すべきかです。
いくつか方法がありますので、検討頂きたい点を挙げておきます。

一部の未収家賃・未収地代をカットする

まずは、地元で長く営業され、なおかつ信頼できる不動産業者様にご連絡してみましょう。
信頼できるかどうか、一度会ったくらいでは判断できないと思いますが、次を参考に、総合的に判断することになるでしょう。

  • お店の外観がキレイそうか?
  • 宅建業の免許番号が長くなっているか?(5年ごとに+1増えていくので、営業歴が分かる)
  • 賃貸不動産を多く取り扱っていそうか?
  • 最初のお話し合いで「すぐに管理物件にさせてくれ」等、自分の利益ばかり追求しないか?
  • 地元の事情に精通しているか?

私のお客様(不動産オーナー様)が所有している賃貸アパートのお話しです。
その賃貸アパートは地方にあり、管理は地元のいい加減な不動産業者任せ。
当然、家賃の回収もきちんと行ってくれません。

そのような物件の場合、家賃が3年!くらいに滞納しているものもあります。
一般的に、家賃を3ヶ月以上滞納したら、退去理由になると言われています。

こちらもどうやったら回収するか、考えました。
まず、連帯保証人に連絡しましたが、
「本人が払うんだから、私は関係ないでしょ!」
とのことでした。
どうやら、皆様、連帯保証人の意味をご理解頂けてないようで・・・(T-T)

また、地元の不動産業者様も、のらりくらりで、きちんと対応してくれません。

そこで、色々考えた結果、滞納家賃のうち、1年半分をカットして、残りの1年半分は、きちんと追いかけて(毎月多めに払ってもらい、少しでも滞納家賃に充当してもらうように)もらうようにしました。
というのも、毎月の家賃がとても低いため、弁護士先生にお願いして裁判手続きしても、費用倒れになると思われたからなんですね。

カットした分(ほとんど回収可能性がない分)は、当然、相続財産にしなくて良いことになります。
その意味では相続税の節税をすることができました。

このあたり、不動産オーナー様のお気持ちは複雑ですし、断腸の思いでしょう。
ですが、ほぼ確実にもらえない未収家賃や未収地代に、相続税がかかる。
そのような事態になりますので、お子様達にもご迷惑をおかけしてしまいます。
このあたりは、税金、家賃の回収可能性、弁護士への依頼費用、といった総合的な判断が必要になるでしょう。

 この事例の教訓としましては、(自分の目の届かない)地方の物件は持たない方が良い、ということでしょうか。

弁護士先生にお願いする

滞納家賃や滞納地代については、地元の不動産業者様にお願いしても、話し合いがまとまらない場合も多いです。
その場合は、弁護士先生にお願いすることになります。
弁護士先生にお願いする内容としては、一般的にはつぎのとおりになります。

  • 内容証明郵便の発送
  • 公正証書の作成
  • 調停や訴訟

賃貸不動産で一番多いのが公正証書郵便の発送でしょうか。

不動産オーナー様のなかには、ご自分で作成される方もいらっしゃるでしょう。
ですが、作成の際に弁護士先生に法律相談できることも考えれば、私は、基本的には弁護士先生にお願いすることをお勧めしております。
(費用も数万円~20万円程度に収まることが多いです)

まずは不動産業者様にお話し合いをお願いする。
次に内容証明郵便。
それでも、滞納家賃や滞納地代が解決できない場合は、弁護士先生にお願いして、明け渡し訴訟等を行うことになりますが、問題は弁護士先生の費用です。

私も、問題がある物件について、ご依頼者様と一緒に検討したことはありますが、弁護士先生への費用、入居者が高齢で相続がおきそうなこと、色々な事情を総合的に考え、多くの場合はそのままにすることが多いです。

そのようにならないよう、最近は最初から保証会社をつけるというのが一般的です。
保証会社の方で裁判をしてくれ、弁護士費用も保証会社がもってくれるので、安心と言えます。
(なお、途中から保証会社をつけることもできる場合もありますが、その場合は、それまでの滞納家賃の放棄を求められることが多いようです。)

また、供託金も同じです。
問題(家賃の増額交渉、借地権の存否の争い)が解決しなければ、供託金を引き出すことができません。
いわば、死に金(しにがね)になってしまいます。
この場合も、手順を追って、不動産に詳しい弁護士先生へお願いすると良いでしょう。

 

未収家賃・未収地代が多い不動産オーナー様は、一度お考えください。
「回収可能性がほとんどないのに、相続税がかかってしまう。これでは相続人が迷惑するな・・・」

また、供託金を多くお持ちの不動産オーナー様も同じです。
「争いを次の世代まで引き継がせて良いものか?このままでは供託金を自由に使えないし・・・」

 

問題を早めに解決することが、相続税の節税にもつながります。
一度、真剣にお考え頂く事を、お勧め致します。

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。