遺言執行者とは何ですか?

質問

父は公正証書で遺言書を作成していました。
父の死後、長男である私が遺言書を確認したところ、遺言書の最後のほうに
「遺言執行者は長男である***とする」
と書かれていました。
私は、どうやら遺言執行者というものに任命されたようです。遺言執行者とは、どのようなことをするのでしょうか。

回答

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

遺言執行者とは、もの凄く簡単に言いますと、

「遺産を管理して、指定された方へきちんとお渡しする方」

をいいます。
具体的にご説明していきましょう。

 

相続がおきた場合、事前に遺言書が作成されている場合も、最近は多いようです。
事実、私がお受けしている相続税の申告業務でも、遺言書が作成されている事例が増えてきました。

遺言書がある方は、内容のうち、最後の部分を見てください。
そこに遺言執行者が指定されていた場合は、その遺言執行者が、皆様に代わって、遺産の名義変更をすることになるからです。

ところで、遺言書を作成する一番の目的は、「指定された遺産を指定した方にきちんと渡す」ということになると思います。
(もちろん、他にも目的はありますが)
遺言執行者は、この一番の目的である、遺産の名義変更を、代表して行うことになります。

ところで、遺言書のなかで、遺言執行者が決められていない場合はどうなるのでしょうか?
この場合は、遺言書で財産をもらう方々が協力して、遺産の名義変更をすることになります。

ですが、遺言の内容を快く思わない方(受け取る財産が少ない方等)は、遺産の名義変更手続きに協力してくれない場合もあります。
そのような場合でも、遺言執行者が決められていれば、原則として、遺言執行者の権限で遺産の名義変更をすることができます。

 

遺言執行者がすべきことは?

遺言執行者は、遺言の内容を実現するのがお仕事です。
具体的には次のようなお手続きをすることになります。

(1)相続人や受遺者への通知

まずは、自分が遺言執行者であることを、相続人や、遺言書で受取人に指定されている方(受遺者)へ、お手紙等でお知らせする必要があります。
内容は、「自分が遺言執行者になりましたので、お手続きにご協力ください」といった内容になります。

また、遺言執行者に指定されたからといって、必ず遺言執行者にならなければならない、というわけではありません。
なりたくない場合は、辞退することもできます。
その場合も、各関係者へお知らせしておいた方がよいでしょう。

(2)遺産の管理・財産目録の作成

遺言執行者になった方は、法律で、遺産をきちんと管理することになっています。
ですから、勝手に使われないように、現金や預貯金をきちんと管理しなければいけません。

また、法律で、財産目録(財産の一覧を書いた、いわば財産リスト)を作らなければならないことになっています。
この財産目録には、遺言書に書かれている財産を書きます。
基本的には財産だけを記載すればよいのですが、遺言書が
「全ての財産債務を換金して、この割合で配分する」
となっていた場合は、財産だけでなく、債務(借金)も載せなければ、最終的な配分金額が分かりませんから、全ての財産と債務とを漏れなく記載することになります。

そして、遺言書に書かれている遺産を受け取るのか、受け取るのであれば全部か一部かを、本人に確認する必要があります。
万が一、遺産を受け取らないとなった場合は、その財産については、相続人同士で遺産分割の話し合いをして、誰がもらうのか決める必要がでてきます。

(3)遺産の名義変更

遺言執行者は、遺言書の内容を実行しなければなりません。
つまり、遺産の名義変更をきちんとする必要があります。

遺産の種類ごとに手続きが違うのですが、ここでは、預貯金と不動産について簡単にご説明しましょう。

A.預貯金の場合

預貯金の場合、通常は解約して払い戻すことになります。
そして、払い戻したお金は、遺言書で指定された方に振り込み等で渡すことになります。

また、払い戻し(解約)ではなく、名義変更(例えば父から子へ名義変更)といった方法もあります。
ですが、解約できない事情(事業用の口座で口座振替が頻繁に行われている等)がなければ、通常は解約して払い戻す手続きになります。

また、ほとんどの銀行では、遺言書があっても、専用の手続用紙に、相続人、受遺者全員の署名と実印、それに印鑑証明をもらってきてください、と言われます。
(銀行はトラブルに巻き込まれたくないんですね)

ですが、ご家族の仲が良くない場合、一部が揃わない場合もあります。
このような場合は、結構大変です。
銀行に説明して、「遺言書があるんだから解約して!」と伝えても、なかなかOKしてくれません。

このような場合は、どうすれば良いのでしょうか?

ひとつは、銀行に経緯を粘り強く説明して、納得してもらうことです。
場合によっては、上司の方、本店の部署等に直接お願いすることも必要かもしれません。

もうひとつは、銀行相手に裁判をする方法です。
(払戻請求訴訟)
弁護士先生にお願いして、銀行相手に預金を払い戻すよう、裁判を起こすのです。
ただ、これには費用と時間がかかりますので、できれば避けたいものです。

B.不動産の場合

不動産の名義変更は、ほとんどの場合、司法書士先生にお願いすることになります。
(手続きが難しいため)
戸籍謄本や住民票等が必要となりますが、公正証書遺言の場合は、ほとんどの書類を司法書士先生が代わりに集めてくださり、手続きが完了しますので、遺言執行者の知り合いの司法書士先生にお願いすることになるでしょう。

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誰を遺言執行者にしておくのが良いのか?

遺言執行者は、ご家族、知人等、誰でもなることが出来ます。
また、遺言執行者に指名されていても断ることもできますし、指名がなければ、家庭裁判所に遺言執行者を決めてくれるよう、お願いすることもできます。
(実務上はあまりないのでしょうが)

ご家族の仲が比較的良い方は、相続人の代表者(例えば長男)といった方にしておくとよいでしょう。
というのも、遺言執行者を第三者(例えば弁護士や信託銀行等)にした場合、費用がかかるからです。
(安くても数十万円、高いと数百万円かかります)

ただし、財産が多い方、ご家族同士の交流が疎遠な方は、揉めそうな方は、弁護士にお願いしておく方が無難と言えるかもしれません。
というのも、関係者同士でトラブルになった場合、解決できるのが弁護士だけになるからです。
例えば、預貯金の解約ひとつとってもそうです。
一部の関係者が署名押印してくれない場合、銀行に払い戻しをお願いしなければなりません。
また、遺言書で指定された不動産に関係者が居座って出て行ってくれない場合は、法律で解決しなければなりません。

ですので、トラブルが予想される場合は、信頼でき、事情が分かっている弁護士先生の遺言執行者になって頂きましょう。
なお、弁護士先生がかなりのご高齢の場合、遺言者より先にお亡くなりになるかもしれませんから、その点は注意しておきましょう。

 

遺言書を作る場合は、公正証書遺言で。そして内容の一番最後には、きちんと遺言執行者についても決めておきましょう。

私が経験した事例では、弁護士先生が遺言執行者として指定されていたにもかかわらず辞退され、新たに選任せず、遺言執行者がいない状態で相続手続きをしたことがあります。
(その弁護士先生が遺言書を作成したのですが、その内容通りに遺言を実行するとトラブルになる恐れがあったため、あえて辞退されたものと思われます)

色々な顛末、経過があったのですが、別の弁護士先生と協力して、なんとか相続手続きを終えることができました。
(関係者の仲が比較的良かったため、助かりました)

相続には色々な問題、トラブルが想定されます。
事前に信頼できる専門家に相談することが大切ですね。

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。