本年中における特殊事情の効果的な書き方は?

IMG_7986-1.jpg

税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

中央区日本橋の税理士、石橋です。

毎年、確定申告の時期になると、色々な個人の方から「確定申告をお願いします」というお問い合わせを頂きます。

確定申告は、極端な話し、ご自分で書くことも可能です。
(ただし、不動産の売却等があった場合は、難しいので税理士に任せた方が良いかもしれません)

ですが、経験値の高い税理士に依頼すると、色々とトクなことがあるかもしれません。

今回は、そのなかのひとつ、「本年中における特殊事情」の書き方について、ご説明したいと思います。

 

本年中における特殊事情とは何ですか?

個人事業をされていて、毎年、確定申告書をご自分で書いている。
そのような方は、「青色決算書」という書類に、年間の売上、仕入、経費を記入されているかと思います。

青色決算書は、個人事業の方の売上や経費を集計し、利益(所得といいます)を計算することを目的としています。
ですので、基本的に文章を書くところはありません。

ですが、例外があります。

普通の個人事業をされている方は青色決算書の3ページ目の右下に、次のような欄があります。

特殊事情(3).PNG

また、不動産賃貸業をされている方は、(不動産事業用の)青色決算書の4ページ目の右半分に、つぎのような欄があります。

特殊事情(2).PNG

この欄(本年中における特殊事情)ですが、どのような場合に書くのでしょうか?
また、書く必要がある場合は、どのように書けばよいのでしょうか?

 

「KSKシステム」というものがあります

ご存じの方もいるかもしれませんが、税務署には「KSKシステム」というものがあります。

確定申告書が提出されたら、その数字の部分が、OCR(文字自動認識システム)で認識され、KSKシステムにインプットされます。
そして、そのKSKシステムが、どこに税務調査に行ったら良いのか、調査対象を自動で抽出すると言われています。

そして、その抽出されたデータを人間(税務署員)が実際に確認し、最終的に税務調査に行くべきかどうか、判断するとされています。

ここからは推測になりますが、いくら高度なシステムであっても、所詮、コンピューターですから、人間のように判断できないと思います。
ですので、KSKシステムが重視しているのは、急激な数字の変動、つまり昨年(または一昨年)と大きく数字が変動している部分だと思います。

ですので、

  • 売上が急激に増加(または減少)した
  • 取扱商品が変わり、商品の原価率が大幅に変わった
  • 賃貸不動産の空き室が増え、収益が大幅に減少した

といったように、今年の確定申告の数字が、昨年または一昨年と大幅に異なる場合は、税務調査の可能性が高まるのではないかと思われます。
(あくまで個人的な意見ですが・・・)

 

「本年中における特殊事情」の書き方は?

上記のように大幅に数字が変更となった場合は、税務調査の選定対象になりやすいかもしれません。

ですので、税務署に質問される前に(税務調査に来る前に)、先程ご説明した「本年中における特殊事情」に、その変動原因を書くと良いでしょう。

具体的な書き方ですが、つぎのようになるかと思います。

(1)個人事業で大幅に売上が上がった場合

たまにあるのですが、個人事業の方で、ある年だけ大きな売上が上がる方がいらっしゃいます。

例えば、個人のコンサル業、個人のプログラマーといった業種の場合、昨年の売上が1,500万円なのに今年は2,500万円といったこともあります。

このような場合は、つぎのように記載すると誤解が少ないかもしれません。

本年の売上増加事由は、株式会社**商事(住所:中央区**町1-1-1)へのスポット的なコンサル業務提供による売上800万円によるものです。
なお、私と**商事とは、適正に業務委任契約を結んでいることを申し添えます。

税務署が知りたいのは、

  • なぜ売上が増えたのか?
  • その売上をきちんと申告しているのか」
  • 相手先は実在しているのか?

ということです。

税務署が税務調査に行く場合際は、事前に必ず、提出された確定申告書を確認します。
その確定申告書のなかの「本年中における特殊事情」の欄に、上記のように記載がされていたら、普通の税務署員であれば、ちょっと考えるのではないでしょうか?

「税務調査に行って、追加の税金を取れるのかな?」と。

(2)個人の飲食店で大幅に利益率が変わった場合

個人で飲食店をされている方も、注意が必要な場合があります。

飲食店業の場合は、大きく売上が増えたり減ったりすることは少ないかもしれません。
ですが、原価率が変わった場合は、注意する必要があるかもしれません。

例えば、客単価4,000円のイタリアンがあるとします。
飲食店の原価率は、一般的に約25%~約35%程度と言われています。

例えば、ここ数年の原価率が平均して約30%だったとしましょうか。

ですが、今年に限って、原価率が約40%になってしまったとします。
その場合は、つぎのような書き方をすると良いでしょう。

個人事業の内容は洋食店(イタリアン)です。
近隣にオーガニック野菜をメインとする料理店が出店したため、当店も対抗すべく、無農薬野菜の使用を積極的に進めました。
そうしたところ、売上は何とか昨年と同程度を維持しましたが、無農薬野菜を使用したことにより原価率が昨年の約30%から屋kう40%へと上昇してしまいました。
来年度以降は、原価率の低い飲料(ワイン)の取扱いを増やし、利益の確保に努める予定です。

このような記載があれば、税務署も、
「なるほど。原価率の上昇は、経費を水増ししているのではなく、そのような事情があったためなのか。」
と、理解してくれる(かも)しれません。

KSKシステムでは、単に売上が増えた、経費が増えたではなく、原価率もチェックしているでしょう。
確定申告書を提出する前に、原価率をチェックしてみて、大幅に変わっている場合は事前に説明しておきましょう。

 

(3)不動産賃貸業で多額の修繕費が発生した場合

貸しビル、貸しアパートをお持ちの方は、多額の修繕費が発生することがあります。

高額な修繕費の場合、その年の経費になるかが問題となります。

高額な修繕費が発生した場合、税務署は、
「その修繕費によって、建物を使える年数が伸びたでしょう。だから、その修繕費は今年だけの経費とせず、数年間~数十年間で経費にしてください(減価償却してください)」
と、言ってくるかもしれません。

修繕費が一時の経費になるのか、ならないのか、難しいので説明を省略します。
ですが、基本的には、建物の価値が上がっていないのであれば、支出した年の経費になるのです。

平成23年に東北大震災がありました。
私のあるお客様(不動産オーナー様)の保有物件は東京にありましたので倒壊はしなかったのですが、築40年以上経過していたため、あちこちびヒビが入り、1千万円近くの修繕費がかかってしまいました。

そのため、その年分の不動産所得の確定申告書は赤字となりました。
これは目立ちます。
というのも、不動産賃貸業では、基本的には赤字になることはないからです。

ですから、私は「本年中における特殊事情」の欄に、次のように記載しました。

東北大震災により建物全体(特に廊下等の共用部と外壁)に多数のヒビが入り、近隣の工事業者に依頼して、合計金額12,345,678円の修繕工事を行いました。
当該工事は、あくまで、震災からの原状復帰を目的としたものとなり、建物自体の価値増加部分はないと考えます。
なお、当該判断は、所得税法基本通達37-12、37-12の2、37-13及び過去の裁決例等を参考にしましたことを申し添えます。

このように書くと、税務署も「きちんと調べたんだな」という印象を持つのではないでしょうか?
経験豊富な税理士に依頼すると、具体的な法律(通達)の番号まで書いてくれるから、より安心だと言えますね。

 

「本年中における特殊事情」を積極的に利用しましょう!

私も色々な税務書籍を見てきましたが、この「本年中における特殊事情」について、詳しく説明している書籍はなかったように思います。

ですが、税金を厳しく取り立てる税務署が、わざわざこのような欄を作ってくれているのです。
ですから、やましいことがないのであれば、どんどん書いて、税務署に積極的に説明していきましょう。

ところで、税理士によっては、この「本年中における特殊事情」を全く使わない方もいらっしゃいます。
(この欄に記入するのは手間がかかりますし、報酬を余分に貰えるわけでもないですから)

ですが、今までのご説明のように、ここに書いてあることで税務署の心象も良くなるでしょう。
(場合によっては、余計な税務調査を回避できるかもしれません)

ちなみに当事務所の場合は、何か特別な事項があった(または私がそのように判断した場合は)、積極的に記載するようにしています。

お客様に、このことをお伝えすると、ほとんどの場合、
「そこまでやってくださって、ありがとうございます」
と、感謝のお言葉を頂きます。

税務調査に来て、何も問題がない場合(追加の税金発生がなく、空振りに終わった場合)、お客様の貴重な時間を浪費してしまうことになります。
ぜひ、「本年中における特殊事情」を、効果的に、積極的に使ってみてくださいね。

確定申告を経験豊富な税理士に依頼したい。そのような方は、当税理士事務所の初回1時間無料相談をご利用ください。